2009年05月10日

サイボーグ009

半人間、半機械。そんなサイボーグたちの戦いと悲哀を扱った石森章太郎のSF漫画です。

Cyborg_009.jpg
「サイボーグとアンドロイドの違い」を以前デハさんに指摘されました。前者は、生命としての人間の機能が残っているのに比べ、後者は全くの人造人間=機械。ゆえに、前者のような苦悩を後者にも当てはめるのは間違っている… まさに正しい認識です。
70年代、まだ日本人の庶民の多くがサイボーグとアンドロイドの明確な違いを意識していなかった頃、それらの境界線を正しく認識して描いていた漫画家は、石森章太郎さんぐらいだったのかもしれません。即ち、アンドロイドとして人間社会からの疎外感を描いた「ロボット刑事K」「キカイダー」と対比させ、人体を改造してしまった悪の組織に対する果てしない戦いと苦悩を描いた「仮面ライダー」「サイボーグ009」、これらすべての作品が石森さんの手になる作品だったからです。

cyborg_002.jpg

当時のヒーロー漫画では、鉄腕アトムにしろ仮面ライダーにしろ基本的に一人で悪と戦っていたのに比べ、サイボーグ009は多国籍軍による集団戦、というところに独自性があります。
いつものように、登場人物をおさらいしておきましょう。

001号/イワン・ウイスキー:ロシア出身の0歳児。だが知能は最も優れており、地頭力に秀でている。最大の武器は赤ん坊特有の夜泣きで、これをくらうと棚から物が落下し、敵は倒れてしまう。「泣く子と地頭には勝てない」という諺は、001号の故事に由来する。大人しくすやすや眠っていると何も出来ないという弱点も併せ持つ。時々狸寝入りもする。
002号/ジェット・リンク:アメリカ出身。足からジェット噴射し、他のサイボーグ衆を抱えて運搬・飛行する。当時「サイボーグが足代わり ナウいねえ」というレンタカー屋のCMがあった。いわゆるアッシー君。
003号/フランソワーズ・アルヌール:フランス出身。サイボーグ衆の紅一点。いつも001号を抱っこしている。索敵能力に優れ、特に聴覚は4km先に落ちた10円玉の音を聞き取ることが出来る(=せこい)。
004号/アルベルト・ハインリヒ:ドイツ出身。ベルリンの壁を乗り越えようとして(=古い)失敗、サイボーグ化された。指からはマシンガンが装備されていたり、二の腕には包丁がついていたりと武装されてるので迂闊に近寄ると危険。
005号/ジェロニモ・ジュニア:アメリカ先住民。巨体で怪力。頭はモヒカン刈り。
006号/張々湖:中華人民共和国出身。文化大革命(=古い)の最中にサイボーグ化された。最大の武器は口から吐き出す強力な火力をもった火炎で、これを利用して作る焼餃子は美味しいらしい。鉄板の方、大変お熱くなっていますのでお気をつけください。
007号/グレート・ブリテン:英国出身。別名ジェームズボンド。特技は、周囲の環境にすっかり溶け込めること。人格だけでなく、姿の色や形まで適応してしまうのが凄い。
008号/ピュンマ:アフリカ出身。他のサイボーグたちが、出身地が国単位なのに比べ、この人だけ大陸単位。水中でも活動でき、ついた別名が半魚人。
009号/島村ジョー:日本出身。花形満、ブラックジャック、鬼太郎とならんで四大前髪片目人間の一人。最大の武器は奥歯を噛むと作動する加速装置で、とてもせっかちになる。
ギルモア博士:サイボーグ達に指令を出すだけならガッチャマンの南部博士と役割はさして変わらないが、時折修理までするのでアトムの御茶ノ水博士レベルに達している。また心のケアも行い、ケアマネージャとしてサイボーグたちに慕われている。

こんな個性派国際集団が、赤いダブルのブレザーに身を包み(=001号を除く)、自らをサイボーグに改造した悪の組織:ブラックゴースト団と戦うストーリーです。

cyborg_001.jpg

考えてみれば、「ブラックゴースト団」は見上げた組織です。何しろ、自分達の企業理念が「悪」だと自覚している点が秀でています。自覚しているからこそ「ブラックゴースト」などというおどろおどろしい名前を命名したわけで、そうでなければ「なかよし白百合会」や「天使のしっぽ団」のような名前をつけるところでしょう。
実社会で一番タチが悪いのが、「自分は善意と思いながら悪をばらまく組織」の方です。無自覚のうちに行われる「悪」こそが一番恐ろしいことは、オウム真理教事件のような極端な例に限らず、いくらでも見ることができます。80年代の厚生官僚が、非加熱製剤を使い続けて薬害をばらまいたのも、当事者たちは厚生省という組織を守るために「善意」でやっていたところに恐ろしさがあります。
親鸞が「善人なおもて往生す いわんや悪人をや」と説いた心は、おそらくその点にあります。
サイボーグ達も、ブラックゴースト団との戦いを続けながら「正義」の相対性に悩んでいきます。その点が石森作品に通奏低音として流れ続ける哲学になっています。

「サイボーグ009」は作者の没後10年を経た今日も人気を保っており、今日(09年5月10日)まで秋葉原のUDXビルで「サイボーグ009」展が開催されています。
posted by シモン at 11:30| 東京 晴れ| Comment(7) | TrackBack(0) | コミック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
009とそっくりな主人公の「氷河戦士ガイスラッガー」という作品もあります。
http://www.geocities.jp/nazca882000/index.htmlここがその研究サイトです。
概略は、3万年前南極大陸に栄えたソロン国が、宇宙からの侵略者インベムに対抗するため強化改造人間を完成させた直後、地殻変動で地球文明は崩壊し、ガイスラッカーたちも氷の中に封印され、氷河期に入ってしまい利用価値のなくなった地球から敵は手を引きました。
3万年後、再び襲ってきた敵の前に、突如氷の下から甦り死闘を繰り広げますが、主人公の叔父の子孫と思われる志岐博士(南極観測隊副隊長)より、現在の地球が彼等の時代から3万年経っていることを知らされ、何のために闘わなくてはならないのか、とガッカリしている、というお話です。こちらも8月にDVD化されるのでご関心のある方は是非(宣伝モード)
Posted by デハ at 2009年05月10日 12:29
タツノコプロの悪玉(母艦シリーズの3悪、テッカマンのワルダスター、クロダコブラザーズなど)も、自ら「おれたちゃ悪者」と名乗っています。そして、彼等の過半数は、滝口順平の声で喋る首領を押し頂いているという共通点があります。
Posted by デハ at 2009年05月10日 12:32
子供の誘拐予防ビデオで、
「悪いおじさんについてっちゃダメ」というのがあって、そんなのに出てくるおじさんはたいていサングラスにマスクしたりと、いかにも悪そうな格好。でもそんな見るからに怪しい格好で誘拐する犯人なんていないでしょう〜
Posted by 無名X at 2009年05月10日 12:52
私は80年代頭のアニメ作品を見ていました。思えば003号以外普通でない境遇でサイボーグになっていますね。グレた日本の若者である009号はさておき、原作発表時点で東独・中共の政治問題、米国先住民・阿弗利加の人権問題を取り上げており、原作者が圧力を掛けられなかったのが奇跡的です。006号の存在など、大躍進・文革をタブー視する中国では放送禁止ではないでしょうか?現代なら「将軍様の国を脱北中に撃たれた人」をサイボーグにするような設定です。

昨日今日と、シモンさんの記事に対する「テーマとあまり関係ない当時の画像」が絶妙にマッチしていますね。体育祭の看板アートも80年代はアニメキャラが多かったように感じます(ラブコメもありましたが)。最近は実在する時の人が主流のようです。
Posted by HB at 2009年05月10日 16:43
「ガイスラッガー」というアニメーション作品は、名前は存じておりましたが、石ノ森章太郎作とは初耳でした。ご教示ありがとうございます。近年、マイナー作品のDVD化が進展しているのは結構なことだと思います。研究サイトの方も拝見させていただきました。

思えば、70年代頃までは漫画はアンダーグラウンドな文化だったので、政治権力の介入などから自由だったんでしょう。ただ、008号の出身国が明かされず漠然と「アフリカ」だったりするのは一定の配慮なのかもしれません。

サイボーグといえば、一昨日銃で鼻を失った40代の米女性が顔面移植で(別人の顔ながら)鼻を取り戻したという記事を思い出しましたが、こちらはあくまでも「移植」なのでサイボーグの範疇外でした。

Posted by バカボンのパパ at 2009年05月10日 17:52
HBさん、そこまで詳しく読んで頂いて嬉しいです。
ただ私は構成力がありませんので、次回はまた「記事と無関係な画像」が羅列されるであろうことをお許しください。
Posted by シモン at 2009年05月10日 20:58
ギルモア博士やお茶の水博士の鼻って呼吸できるのかなぁ?と思ったことありませんか?
Posted by デハ at 2009年06月27日 21:28
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