2010年09月20日

フォーク

食器としての歴史は、ナイフより遥かに新しいものです。

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基本的に箸文化である日本の食卓にも、既にナイフとフォークの文化はすっかり定着しました。
私が高校時代(80年代初頭)、私の友人の父親は洋食屋でナイフとフォークを使わず「箸をください」と店員に頼んでいましたが、そういった人は既にかなりの少数派でした。

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そんなフォークですが、実は西洋でも歴史は浅く、上流家庭で普通に用いられるようになったのはやっと17世紀になってからだそうです。ではそれまでどうやって食べていたかというと、ナイフ一本で肉を刺して食べたり、手掴みで食べていたそうです。
最初は二股のものしかありませんでしたが、やがて3股・4股のフォークが発明され、今日に至っています。いろいろと食器のマナーにうるさい西洋式食事法ですが、そんなテーブルマナーが整備されたのもほんのここ数百年という訳です。

フォークを使ったマナーといえば、ライスを食べるのに、「フォークの背中の方にライスを載せて食べる」のが正しいマナーと言われたことがあります。フォークの反りは、本来フォークの腹に食べ物を載せて食べるのに適しているにもかかわらず、わざわざ滑り落ちやすい背中の方にライスを載せて食べるとはかなり変です。
大学時代のある日、私はマナーに厳しい友人とレストランに昼食を食べに行きました。そしてライスを食べるのに、右手に持っていたナイフをフォークに持ち替えて片手でパクパク食べていると、同席していた友人に
「笑止!みっともない食べ方するなお前。こうやって食べるのだ」
と笑われました。彼は、器用に右手のナイフで左手に持ったフォークの背にライスを載せて食べていました。彼はライスだけでなくサラダも同じように食べていて、よくまあ千切りキャベツがフォークの背から落ちないなと感心したものです。

カルチャーショックを受けた私は、正しいテーブルマナーを身につけるべく、日夜「ライスをフォークの背中に載せて食べる」研鑽を積み重ねました。
そして社会人になり、オランダから派遣で来日した研究者と会食をした日のことです。私は得意げに、彼の前で「正しいテーブルマナーはこうです」と言わんばかりに胸を張って、ライスをフォークの背中に載せて軽々と口に運んで見せました。すると相手のオランダ人研究者は
「あなたは変わった食べ方するんだね。正しくはこう食べるんですよ」
と言うと、右手に持っていたナイフをフォークに持ち替えて片手でパクパク食べ始めました。私は愕然としました。要するに、「ライスをフォークの背中に載せて食べる」のが正しいマナーだというのは、日本で80年代だけ流行った一種の都市伝説だったのです。

都市伝説ついでに言うと、我々日本人はパスタを食するのに、右手にフォーク、左手にスプーンを持って両手でクルクル巻いて食べる人が多いのですが、イタリア北部の都市では誰もそのような食べ方をする人はいません。右手のフォークだけで、パスタをクルクル巻いて食べています。「イタリア人はぐうたらで仕事嫌い」と思っている日本人も多いのですが、それは専ら南部のイタリア人のことで、イタリア北部のビジネス指向はなんら日本人やドイツ人と変わることがありません。彼らが昼食にパスタを食べるのは、さっさと食事を終わらせて午後の仕事に取り掛かれるからだそうです。

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先日、友人に「美味いから」と誘われてカレー専門店に入ったのですが、スプーンでなくフォークだけ出されてちょっと往生しました。スプーンよりフォークで食べるのが「お洒落」と言いたいのでしょうが、やはり液状のルーをすくって食べるのにはフォークよりはスプーンの方が適しています。
(本文と写真は関係ありません)
posted by シモン at 06:00| 東京 ☀| Comment(7) | TrackBack(0) | 生活 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「ライスをフォークの背中に載せて食べる」やり方は、最近ではめっきり見かけなくなりました。90年代にはまだ残っていたようです。
Posted by A2Z at 2010年09月20日 16:53
巨人の星で、飛雄馬が「箸を持って来い!」とウエイトレスを怒鳴りつけたシーンは秀逸です。
ちなみに私も箸ないかと尋ねます。
 そして、ナイフから直接食べるのも意外と好きです。
左手でフォークで食べることは出来ず、まずナイフで全部切ってから、箸で食べることが多く、箸がない場合は、ナイフか手で食べます。
 あと、一部の本格的印度料理店では、匙を置かないところがあるようです。彼らは、スープ類も手もしくはナイフで食べるようです。
Posted by デハ at 2010年09月20日 21:28
私信読んでいただきましたか
Posted by デハ at 2010年09月20日 21:29
私は高校生の頃、洋食スタイルに憧れ週2日ほど学校の近くの喫茶店に通ってナイフとフォークを使う食事をしていました。理由は父親の影響が大きく、洋式嫌いの父が家族で食事をする時必ず箸を使う和食と中華しか行かず、同級生がファミレスやステーキレストランで洋食を食べる話を聞いて行きたくても行けなかったトラウマからです。大学生の途中からこだわりは無くなりましたが。
カレーと言えば、印度人は大衆食堂ではナイフもフォークも使わず手で食べますが、ホテルや街の高級レストランではナイフ・フォークを使い印度料理を食べています。会社の印度人同僚曰く、現在の印度のエリート層は手で食べないそうです。
Posted by HB at 2010年09月21日 22:35
みなさんコメントありがとうございます。

A2Zさん
90年代も、今ではかなりレトロ色に染まってきました

デハさん
巨人の星でそんなシーンありましたか。
知りませんでした。
ナイフでそのまま口に、というのが中世ヨーロッパ騎士の正しい食事法だったそうです。武家出身のデハさんと共通点が多いですよね。

HBさん
我々よりひとつ上の世代だと、洋食嫌いの人は結構いましたね。今の世代はグルメなのでむしろ「養殖嫌い」が多かったりします。
インド人はベジタリアンでも「欧米や日本の文化に適合できないから」ということで公の場では肉食をする人も増えてきました。あとヒゲを剃る人とか。彼らの適合努力には頭が下がります。
Posted by シモン at 2010年09月23日 07:44
はじめまして。

そもそも欧米では白いご飯を主食として食べるという習慣はないので、ライスをフォークの背に乗せて食べるというマナーは、ステーキ&ライスとか、ハンバーグ&ライスといった日本発祥の洋食メニューを、ナイフとフォークで上手に食べるやりかたとして日本で考案されたものだと思います。

右手にフォークを持ち替えればいいのでしょうが、いちいちテーブルにナイフを置かずに両手スタイルでご飯を食べるには、フォークの背にナイフで乗せるというやり方は非常に合理的な方法と私は考えています。

日本で生まれたマナーなのですから、オランダの方がご存じないのは当然ですし、結局のところ洋食とフレンチやイタリアンは別物ですから、フォークの背に乗せようが片手フォークだろうが自由に食べればよいのではと思います。
Posted by hiro at 2010年10月19日 11:40
hiroさんはじめまして。管理者のシモンと申します。コメントありがとうございます。

>そもそも欧米では白いご飯を主食として食べるという習慣はない

→確かに、ご指摘の通りです。私の友人のオランダ人も、ライスは主食でなく主菜の一つとして食べていました。

ナイフとフォークを持ち変える必要のない、日本で考案された合理的なマナーと考えれば合点が行きますね。
西洋のスタイルを絶対と考えた私の方が保守的だったかもしれません。

つまらないblogですが、またお気軽にコメントください。待っています。
Posted by シモン at 2010年10月19日 20:05
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