2018年08月03日

特攻服

暴走族やヤンキーの人たちの晴れの日の衣装です。

tokkohfuku.jpg

8月に入ると、テレビでは終戦特集の番組が放送されるようになります。早くも戦後73年の歳月を過ぎ、戦争の記憶も風化しつつありますが、同時に日本国憲法も風化しつつあり、このあたりで近代化改修が必要と思われます。

aug201.jpg

昭和19年10月に始まり、終戦まで続けられた日本軍の戦法に「特攻」というものがあることは誰でもご存知でしょう。自ら兵器と共に敵の標的に向かって体当たり攻撃を仕掛けるというもので、その作戦に参加を命じられた時点で、ほぼ生命の帰趨が決まっている、ということで極めて特異な戦法であることは間違いありません。特攻作戦に参加し、命を落としていった当時の若者たちに思いを馳せる時、涙を禁じえないのは私だけではないでしょう。

そんな「特攻」の名前を借りた服が「特攻服」です。
これは、一言で言えば「丈の長い学生服」で、裾が地面につく位の長さです。こういった服を縫製しているのは、町中の小さな洋品店が主流を占めています。東京よりも地方都市に多く見られる服です。

「特攻服」という名前から、特攻隊が出撃する際にこのような服装をしていたと誤解する人がいますが、それは誤りです。特攻隊の服装は通常の軍装で、例えば神風特攻隊のような航空作戦の場合は通常の飛行服でした。強いて言えば、鉢巻を巻いていたぐらいですが、これは通常作戦でも時折見られた光景ですので、特攻隊であることを規定する特別の服装ではありませんでした。

では何故特攻服という服装が存在するかについてですが、これは発祥が旧日本軍の組織とは全く関係なく、暴力団やその関連組織の人が事務所で着用していた「戦闘服」を模したものだそうです。こういった組織の事務所は、いつ不意の来客が訪れるかわからず、しかも常に平和的な訪問とは限らないため、こういった制服を着て来客に威圧感を与える必要があったのだそうです。

この服装は、実際の暴力団関係者の人よりも、むしろ彼らに憧れる未成年の人たちによって好んで着用されました。地方の中学校などで開催される運動会では、応援団長等が特攻服を着用して応援したがり、それを禁止する教師との間でいざこざがあったりしたそうです。
また、近年でも成人式等で、成人に似つかわしくない言動をする人たちがこの服装で出席したりします。
いわば、特攻服は「暴力団組織に憧れる未成年たちの晴れ着」なのです。

aug205.jpg

この晴れ着には、「夜露死苦」とか、「魔苦怒奈流怒」とか、「愛羅武勇」のように、画数の多い漢字でスローガンが書かれていることが多いそうです。それは「IQは低そうに見えても、実は難しい漢字を知っているんだぞ」という反骨心の表現なのかもしれません。

(本文と写真は関係ありません)

posted by シモン at 05:00| 東京 ☀| Comment(34) | ファッション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おはようございます。それでは、第3回をお楽しみください。



夜の海面を谷中先生の乗ったカヌーが進み、ミサは泳いでそれを追った。時間にして2時間、距離にして5〜6キロも行っただだろうか、先生は、途中でカヌーを小さな島に乗り上げると、そこから海に潜って行った。完全装備の彼の後を、ミサは水着とゴーグルをつけただけの姿で追った。海中は真っ暗だ。彼女にとって、先生が身につけている水中ライトの灯だけが頼りだった。

二人は潜り続けた。最初のうち、先生はシュノーケルを使い海面下すぐのところを泳いでいたので、呼吸しながら後をつけるのも楽だったが、そのうち、アクアラングを使って、水深5メートルあたりのところを潜るようになったので、ミサは息が続かなくなった。
(一体、どこまで行くつもりかしら?これでは、とても息が続きそうもないわ)
プアッ!
呼吸のため、水面に上がる。そして、また急いで潜る。しかし・・・
(しまった、見失なってしまったわ!)
ミサが水面に上がっていた間に、先生の姿は消えてしまったのだ。

(仕方がない。帰ろうかしら・・・)
と思った時、
(あら、あんなところに大きな穴が・・・)
ミサは、海底に洞窟を発見した。真夜中の海底が暗いのは当然だが、そこには、単なる照度では測れない暗さ、陰気さ、不気味さが感じられた。それだけでなく、墓穴、人喰い巨人の口、冥界への入り口、と、ありとあらゆる不吉な穴が連想された。
彼女は躊躇したが、いったん水面に浮上し、最後の呼吸をすると、また潜って行った。その時、水面に浮かんだ彼女の尻は、月の光を浴びて白く光り輝き、本物の月よりも美しかった。それは、生命の最後の輝きだったのか、それとも、この世と大気への別れだったのか。しかし、それも一瞬のこと、すぐに海面に沈み、その美しい体は、洞窟に入って行った。そして、入ってすぐ、
(うわあ、急に海流が激しくなった!)
激しい海流に、彼女の体はキリモミ状態になった。更に、
(す、吸い込まれる!)
強い海流は、彼女を洞窟の奥に運んでいったのだ。
やがて彼女は、洞窟が垂直に落ち込んでいる場所に来た。そして、そこでは・・・
(か、体が沈む!浮き上がれない!!)
彼女の身体は、急速に海底に沈んでいった。
その時、彼女は、水の味が変わったことに気がついた。
(これは、真水?淡水?塩辛くないわ。どこかに泉でもあるのかしら?)
更に、
(さ、寒いわ!何て冷たい水なのかしら)
洞窟は、奥に進むほど水温が下がり、魚の姿も見えなくなった。
洞窟に入ってから、ここまでほんの数秒だったが、彼女にはそれが何時間にも感じられた。水の比重の違いにも慣れ、暗い、何も見えない海底洞窟の中を進むミサ。一応、平泳ぎの動きはしていたが、水流に乗って進んでいたので、その必要もなかった。


途中、
(まっ、眩しい!)
洞窟の中に強い光があったのだ。暗いところから来て、急に光を浴び、ミサの目は眩んだ。
(す、水中ライト?)
やがて、彼女の目が明るさに慣れると・・・
(あっ!)
そこには、谷中と踊る十数人の女性の姿が!しかも、彼女たちは、一糸まとわぬ全裸だったのだ!!
(みんな死体だわ!もしや、行方不明になった生徒では!?)
中には、屍蝋化しているのか、透き通るように白い女性の姿も!
(そうか、若い人たちはみんな殺されちゃったから、学校にはオバさんたちしか残らなかったのね。名門の学校なのに、レベルが低いのもそのためかもしれない。もしかしたら、海水浴に来ていた女の子たちもいるのかな?)
そして、恐ろしい考えが頭に浮かんだ。
(今度は私が殺される!?)
それはまだ想像の段階ではあったが、生命の危機は、現実に目の前に迫っていた。早く洞窟を出ること、それが彼女にとって還帰るチャンスだった。しかし、目の前の情景は、あまりに魅力的過ぎた。たしかに、学校で会った女生徒たちよりも、洞窟の中の死体たちの方が若く美しかった。
(ここは水も極端に冷たいし、水圧も強いから、死体がいつまでも腐らないんだわ。それに真水だから、海の魚が来て死体を食べることもないし。もしかしたら、水に特別の成分も入っているかもしれない)
ミサは、谷中から隠れるため目の前の岩をつかんだ。岩は、角が取れて丸くなっていただけではなく、ガラス質の物で覆われ、ツルツルになっていた。もしかしたら、死体たちもそうなっていて、腐敗や傷から守られているのかもしれない。
(なんて異様な情景!海流によって、死体は魚のように身をひるがえす!自在にくねる裸体は水中に色鮮やかに輝く!美しい!なんて美しい踊りかしら。そう、まるで幻想の世界だわ)

しかし・・・
「だ、誰だっ!?」
「はっ!!」
谷中に見つかってしまった!この瞬間、ミサの顔は、数時間前に友人たちに見せた、驚きと恐怖の入り混じった表情に変わった。ただ、今回は、恐怖の要素の方がはるかに大きかった。彼女は、この後自分がどうなるか、すぐに理解したのだから。

「君は新入生だね!」
「あっ!」
ミサは谷中に両手首をつかまれた。更に、この時ゴーグルを剥ぎ取られたので、水中で視力を失ってしまったのだ。(続く)




GATTO 版「海底の舞踏会」第3回・中編いかがだったでしょうか?

原作は、扉を含めて23ページの作品ですが、今回・中編は、15〜19ページめに相当します。時間的には、ミサが海に飛び込んだのが午前零時過ぎ、谷中の手に落ちたのが午前3時少し前の2時間弱というところです。

呼吸のできない水中で捕らわれの身となったミサがどうなるか?今となっては、死亡フラグなんて、まだ気楽でしたね。それでは、明日をお楽しみに。
Posted by GATTO at 2018年08月03日 05:12
余りの暑さに、二度寝を許し、房州勢に一番槍のみならず、小説投稿を奪われし、甲府市内の夜明け。

サテGATTOさん。一番槍、見事なり。其れ以上に、一昨日来の、黒井ミスの小説。爺も堪能、致しました。
爺が昇天する迄の、唯一つの願いは、GATTOさんの小説を、映像化して、この眼で見たい、と云う不逞な願望のみ。

其れ程、見事な描写だと云う意味です。お聞き流し下さいナ。
Posted by 百足衆 at 2018年08月03日 05:37
この服を着ている(た)人と、お友達になったことは一度もないです。。

GATTO様、
第二弾投稿、ありがとうございます。
水死体は苦手ですが(私自身も泳げないので)、
水中の美少女、ってなかなかそそるテーマですね。
Posted by ラー at 2018年08月03日 05:50
中央の男女の首が交差していて、男子がブルマ、女子が短パンを穿いているように一瞬見えました。そしてその男をよく見ると明らかにテント張ってます。
Posted by デハ at 2018年08月03日 06:52
AKBの握手会に行くと推しメンの名を染め抜いた特攻服着ている奴がたくさんいて気持ち悪かったです。
Posted by デハ at 2018年08月03日 06:53
晴れとなつた、甲府市内の朝。
けふの「半分青い」半(永野演)は、率(佐藤演)に電話をかけるが、却下される。

という、回でした。
サテデハサン。テントを設営しているような様子は、伺えませんゾ。
見間違いではありませんかナ。佳い佳い。熱中症に、ご用心ください。剣呑剣呑。
Posted by 百足衆 at 2018年08月03日 07:35
百足衆先生、ラーさん、おはようございます。ご声援ありがとうございます。

今回も「007は二度死ぬ」の映像が参考になっています。真っ暗な海を泳ぐ姿と、潜水をする時の白いお尻の様子です。こちらも実際にDVDで見ていただけましたらうれしいです。

さて、実は、明日が一番、明後日が二番目に大切なところです。特に、明日は、わずか2分程度の話でありながら、読むのに7〜8分かかるくらいに書き込みました。原作では、数秒、1ページ・8コマという軽さでしたが。


実は、私も待ち切れないので、少しだけ予告編を・・・



(第4回予告編)
ミサの手首を岩に押しつけたまま、谷中は続けた。まるで壁ドンならぬ、手首ドンだが、昭和の時代にそんな言葉はないので、やはり磔という言葉の方が相応しいだろう。いまや、この洞窟は、彼女にとって牢獄となった。数分後には、墓場となるのだ。

ミサは、磔になった自分の体を見た。本当は水圧で見えないはずだが、見えた気にはなった。水着の中の腰まわりも、外の太腿や二の腕も、肩も、若さと健康美ではち切れそうだ。あと数分で死んでいく人間のものには、とても見えなかった。
(こんなに若いのに、こんなに元気なのに、ここで死ぬのか、死ななくちゃいけないのか、私・・・空気が吸えない、ただそれだけのために・・・)
当然のことだが、ミサの周囲は水で満たされていて、空気を吸うことはもちろん、触れることすらできなかった。谷中は、彼女の体に傷をつけたり、痛みを与えることはしなかったが、ミサは彼に両手首をつかまれているので、空気に触れられる場所に行くこともできなかった。まだ、息は全然苦しくなかったので、死のイメージはおぼろげだったが、それだけに納得がいかなかった。
また、あれほど谷中に見せて、ほめてもらいたかった白い水着と、その水着姿だが、今は、下着姿のように感じられてみじめだった。こんな無防備な格好で、捕らわれの身になったことが、恥ずかしくてたまらなかった。
(第4回予告編終わり)


それでは、明日をお楽しみに。
Posted by GATTO at 2018年08月03日 07:58
夏バテ主婦の黒井ミサです。

ぷはぁーーーっ!

GATTOさんの文章に、溺れ死にそうです!
熱中症と溺死とどっちがいいか?なんて考えてもあまり意味ないけど、この季節にはアクアなストーリーがいいわね。
基本、黒井ミサは冬仕様ですしね♪
Posted by FYI at 2018年08月03日 10:51
酷暑となつた、甲府市内のお昼前。
けふの昼食が、発表された。ところてんだ。一味唐辛子も、つく。丁度食欲が無いので、この程度で十分である。

サテGATTOさん。会心の、窒息小説パトー3、及び、4の予告編、有難う。黒井ミスも、喜んでいるようで何よりです。

サテ恒例の、昼食予報。
GATTOさんはざる蕎麦。
デハサン達はかつ重。
ラーサンは冷やしラーメン。
シモンさんはコンビニの豚カルビ弁当。
田舎帝王さんは本格印度カレー。
燈台森さんは森の妖精たちのきのこスパゲテー。
藤原さんは近大鯰の蒲焼。
菅原君は食パン。

と、予想。
Posted by 百足衆 at 2018年08月03日 11:21
今日はインスタントのフォーを食べました
Posted by 田舎帝王 at 2018年08月03日 11:58
鮭フライと唐揚げ
Posted by デハ at 2018年08月03日 12:21
FYI さん、よくぞおっしゃってくださいました。この暑い時期には気持ちの良いストーリーだと思います。実際、書いていて涼しくなり、自分でも快適です。

百足衆先生、冷やし中華でした。
Posted by GATTO at 2018年08月03日 12:42
いや、黒井ミサさんでしたね(笑)。
Posted by GATTO at 2018年08月03日 12:44
私が大学経営していたら美人には大幅加点、ブスは不合格にする
Posted by デハ at 2018年08月03日 12:50
東京医大の話は明らかな男女差別だけど、「残業や休業返上で業務を行う必要がある」ってのは(性別関係なく)医師として必須な要件なんですよね。

デハ殿、いっそ「美人の女子に限る」という入学要件の女子医大を、東京医大の隣に設置されたら?
東大とお茶大みたいな補完関係で、うまくやってけるかもよ?
Posted by 燈台森 at 2018年08月03日 13:04
百足衆様

ご名答!
冷やしつけ麺でした♪
Posted by ラー at 2018年08月03日 13:22
デハさんの嫌い?な、
石焼きビビンバでした。
Posted by シモン at 2018年08月03日 13:36
今日はココイチのポークカレーでした
Posted by 谷汲線デロ一形 at 2018年08月03日 15:19
未だ暑さが引かぬ、甲府市内のタベ。
けふの昼食予報は、ザックリ解析して、40%の的中率、と判断せり。

サテGATTOさん、水だけでは暑さが解消しません。
出来れば舞台を南極大陸に移し、氷上での戦闘を描いて欲しい。爺からの、最後のお願いです。
Posted by 百足衆 at 2018年08月03日 18:57
百足衆先生、こんばんは。

>出来れば舞台を南極大陸に移し、氷上での戦闘を描いて欲しい。

それは、無理というものです。やはり、女の子の水着姿を描きたいですから。
このブログでは、ブルマ派が多数派ですが、私は水着派でございます。
Posted by GATTO at 2018年08月03日 20:03
深夜となつた、甲府市内の深夜。

サテGATTOさん。残念ですが、仕方ありませんナ。
氷上での戦い、さぞ涼しげだった事でしょう。
アストロ、ガンガー。
Posted by 百足衆 at 2018年08月03日 22:30
花燃ゆ最高の大河ドラマです!
拝読して‼に、オムレツじゃないのかが汚い。残念が汚いでしょうに、就寝と体育館で会う、さぞです。カキーン?
Posted by 花燃ゆ at 2018年08月03日 22:49
こんばんは。それでは、第4回をお楽しみください。今回は、ミサのキャラが少し変わります。


「君は新入生だね!」
「あっ!」
ミサは谷中に両手首をつかまれた。更に、この時ゴーグルを剥ぎ取られたので、水中で視力を失ってしまった。
更に谷中は、手首をつかんだまま、ミサの体を背中から岩に押しつけた。まるで磔のようだ。
「都合よく来てくれたよ!君も水中で私と踊るんだよ!!」
ミサに、谷中の声が突き刺さった。水中では、本来声で話はできないが、谷中、あるいは両者ともテレパシーが使えるのだろう。
「は、放して!」
ミサは懇願したが、そんなことを聞く相手ではない。谷中からすれば、今のミサは犯行の目撃者だ。生かして帰すわけにはいかない。警察に通報されたら、死刑は免れられない。
しかも、もう一方で、彼女は次なるターゲットでもあった。死体すら帰すわけにいかない、というか、死体こそが一番欲しいものなのだ。そんな彼女が、簡単に殺せる、しかし、死体を運ぶ手間も省ける。生かして帰す、放してやる理由はどこにもない。

ミサは、逃げようとしばらくもがいていたが、相手の力が強すぎた。やがて観念し、動きをやめた。幸い、息にはまだ余裕があり、苦しくなるには少し時間もありそうだ。ここまでは、レッスンの時とよく似たやり取りになったが、この先は違っていた。
「いや、放さない。ここに来た以上は、秘密を知ったからには、生かして帰すことはできない。どのみち君にも、ここで踊ってもらうつもりだったが、わざわざ自分から来てくれるとはね。私は、空気を呼吸する女には魅力を感じないのだよ・・・」

谷中は、ミサの両手首を岩に押しつけ続けた。まるで壁ドンならぬ、手首ドンだが、昭和の時代にそんな言葉はないので、やはり磔という言葉の方が相応しいだろう。この洞窟は、彼女にとって、いまや牢獄と化した。数分後には、ここが墓場となるのだ。いや、今すでに共同墓地になっている。彼女が、ここに眠るだけの違いで、それももう秒読みに入っている。
ミサは、磔になった自分の体を見た。本当は水圧で見えないはずだが、少なくとも見た気にはなった。水着の中の腰まわりも、水着の外の太腿や二の腕も、肩も、若さと健康美ではち切れそうだ。色白の肌には、傷一つなく、これも特別美しかった。傷や痛みや病んだところは一つもない。数分後には死んでいる人間の体には、とても見えなかった。
(こんなに若いのに、こんなに元気なのに、ここで死ぬのか。死ななくちゃいけないのか、私・・・空気が吸えない、ただそれだけのために・・・)
当然のことだが、ミサの周囲は水で満たされていて、空気を吸うことはもちろん、触れることすらできなかった。谷中は、彼女の体に傷をつけたり、痛みを与えることはしなかったが、両手首をつかんだまま、彼女に自由を与えなかった。もちろん空気のある場所に行くことなど許すわけがなかった。まだ、息は全然苦しくなかったので、空気中にいるような自然な感覚があり、死のイメージはおぼろげだった。しかし、それだけに納得がいかなかった。自分が死ぬことが理不尽に思えた。
また、あれほど谷中に見せたかった、ほめてもらいたかった白い水着と、その水着姿だが、今は、下着姿のように感じられて、恥ずかしく、みじめだった。こんな無防備な格好で、捕らわれの身になったことが、恥ずかしくてたまらなかった。

「おとなしくしていなさい。君の体に傷をつけたくない。溺れ死んでもらうが、それ以上の痛みを与えることはしたくない」
(あら、結構優しいのかしら?)
ミサは思った。更に、
「君は素晴らしい」
「えっ?」
レッスンの時の再現のような言葉。しかし、水中の谷中は空気中にいる時とは違って、雄弁だった。
「呼吸をやめた君は・・・・永遠に空気を吸うことのない君は、もう死体と変わらない。そして、そんな君には、白い水着がよく似合っているよ」
(最後の方は、ほめ言葉かしら?)
ミサ、何をのん気に。とはいえ、谷中から水着姿をほめられるというのは、待ちに待っていたことなので、素直にうれしかった。捕らわれの身の、こんな形ではあったが。
まして、大好きな白い水着をつけた姿が、自分では下着姿のように感じられて、みじめだった時に、何よりの言葉だった。
水中で接する谷中は、あまりに魅力的で、恐怖心を忘れるほどだった。彼には、ミサの黒魔術を凌ぐ魔力があるのだろう。


「君は・・・・身動きのできない君は、彼女たちよりも死体らしい。そう、ここでは、彼女たちの方が生きていて、君だけが死んでいるのだよ」
(そうかもしれない。たしかに他の人たちの方が自由でうらやましいわ)
ミサは、谷中の言葉通り、踊るように漂う他の女性たちでなく、動けない自分こそがもう死んでいるという感覚に捕われ、恐怖心は次第に痲痺し始めていた。
「レッスンの時に、喪服のような黒いレオタード群の女生徒たちの中で、君が一人だけ、まるで死に装束のような白いレオタードを着ていただろう。あれも葬式のようだった。棺の中の死者のようだったよ」
(あら、先生も同じこと考えてたのね。相性バツグンじゃない、私たち・・・)
ミサの恐怖心は完全に痲痺し、更にのん気なことを考えたが、その一方、
(あの時感じた不吉なイメージは、こうなることだったのね。よくわかったわ)
と、妙にさっぱりとした気持ちにもなり、死ぬ直前になって、レッスンの時から続く悩みからやっと解放された。
「今や死体となった君には、白い水着が、死に装束として相応しい」
(いやだ、バカ!バカ!!レオタードのことなら死に装束でもいいけど、水着のことは、ウエディング・ドレスみたい、と言ってよ。お気に入りの水着だから、先生に見てもらいたかったし、ほめてもらいたかったのよ。先生が大好きなんだから)
ミサは不満そうに頬をふくらませた。
それを見て、谷中がミサを誘った。
「息が続く間、一緒に踊らないか?白い水着はつけたままでいい。大好きで、大切なものなんだろう?それを私に死に装束呼ばわりされたくないだろう?」
(そうだけど、何よ、『息が続く間』って。どうせ、息が続かなくなっても、死んでも、踊らなくちゃいけないんでしょ。踊り続けるんでしょ。踊りながら死んで、永久に踊り続けるのか・・・)
谷中は、ミサの思いを見抜いたように言うのだった。
「そうだね。息なんか続いていようが、いまいが関係ないよね。この瞬間から永久に踊り続けるんだ」
そして踊り始めた。誘ってはいたものの、有無を言わさぬ強制だった。ミサは、静かにしていることで、酸素の消費量を減らし、少しでも長く生きていたかったが、谷中は彼女の両手首を握ったまま踊りだし、彼女も逆らわずに動きを合わせ、踊り始めた。
とはいえ、谷中はさすがバレエとスキューバ両方のスペシャリストだ。ミサは、彼に両手首を握られ、彼に操られながら、水中で踊り続けていたが、酸素の消費量は意外に少なかったようで、結果的には、水面で人生最後の呼吸をしてから約3分、彼に捕まってからでも2分近く、水中で生存できた。
そして、踊っている間も話を聞かされた。
「いいじゃないか。君は、今よりも美しい姿に変わるのだから。美しい姿に、生き返る、生まれ変わるのだから。そして、こんな美しい踊りをいつまでも続けられるのだから」
谷中の話は、長々と続いた。
(朝礼の時の校長先生の長話より、面白いぶん、はるかにいいわ)
と、ミサは思うのだったが、校長先生の話が1分強で済むはずはない。谷中とは次元が違う、次元が。

「それでは、最後に面白い話をしてあげよう。それは15年前の夏だった。水中で、女の死体を見て、女性の本当の美しさを知ったのだよ・・・・・」
(15年前の夏か・・・私の生まれた頃ね。私、生まれた時には、もうこうなる運命だったのか。その女の人さえ溺れなければ、こんな目に遭わずに済んだのに・・・私も、この子たちも・・・・・こうなる前に、もっと美味しい物をたくさん食べておけば良かったわ。恋もしたかったし、きれいな服を着て、おしゃれもしたかったわ。ああ、私って、かわいそう)
ミサは、甘い感傷に浸った。死ぬことは恐くなかったが、まだ15歳、その若さで死んでゆくことを考えると、悲しくて、切なくて、くやしくて涙が出た。もっとも、水中だったため、すぐ目の前にいる谷中でさえ気がつかなかったが。
(こんなに若いのに、こんなに元気なのに、こんなさびしいところで死ななくちゃいけないのか、私・・・)
同じようなことを、また思った。

しかし、それでも、谷中のことは愛していた。全然ぶれていなかった。
(谷中先生、大好きよ。こんなことになっちゃったけど、恨んでなんかいないわ。ここで死んじゃう私にとって、先生への思いが最後の恋なんだから)
そう考えている自分が可愛く思えてならなかった。
(でも、まあいいか。先生が私のことを好きなことは確かだし、結局、先生のものにはなれたんだから、最後の恋はかなったのよ)
そう思って自分をなぐさめ、励ました。
(それに、一番最後は、どんな服よりも好きな、大好きなこの水着をつけているんだし、水着姿を先生に見てもらって、似合うとほめてもらったのは、最初の希望通りだったんだから。割といい最期だったかもしれないわね)
たしかに、谷中に捕まった直後は、水着姿という無防備な格好で彼の手に落ちたことが、恥ずかしくてたまらなかったが、この時には逆に、一番好きな水着姿で彼のものになったことに喜びすら感じていた。また、彼に見られている、その恥ずかしさにさえも心地良さが感じられた。
まだ息は苦しくなかったので、ゆっくりと感傷に浸りながら、この世との別れを惜しもうと思った。


一方、谷中は、まだ話を続けていた。
「・・・・・君、見たまえ」
(ゴーグル取られちゃったから、もう何も見えないんですけど・・・)
「・・・これは美しい踊りだよ。思うがままに水中でくねる裸身は、色鮮やかに輝く。それは魚以上に素晴らしい。目が眩むほど美しい。神秘へ誘う水中の幻想の世界」

もう1分以上、踊りながら谷中の話を聞かされ続けていた。少しずつではあるが、息も苦しくなり始め、ミサは死を覚悟した。それに気がついたのか、谷中は、踊りの動きを止め、まるでキスでもするかのように、互いの顔を近づけた。それは、あたかも彼女への最初で最後のプレゼントのように見えた。ミサもそのつもりだったようで、目を瞑り、体を固くした。わずか15年だったが、有意義で、楽しい一生だった。その短い人生の最後の記念に、素敵な贈り物を受け取ろう、そして、その思い出を胸に天国に旅立とう。
(ファースト・キス、そして、生前最後のキスか・・・)
彼女は幸せだった。もう何も恐くなかった。しかし・・・・

・・・しかし、谷中は、マスクもレギュレーターも外さなかった。そして、彼女の太腿、腰まわり、胸、顔の順に、舐め回すように見ながら言った。
「可愛い顔をして・・・まだ子どもだけど、いい体をしてるね。これから、もう育つことはなくなっちゃったけど、十分だよ、この体でね・・・・」
ミサがぼう然としていると、谷中は更に追いうちをかけた。
「君はもう数秒で息が続かない。その後で、水着を脱がすのだよ。うっふふふふ・・・・さあ、君の美しい裸身を、早く私に見せておくれ」
「いやーっ!」
ミサは、我に返ると、火事場の馬鹿力で、谷中の手を振り解き逃げた。それまで、ミサは、死後も大好きな水着をつけたまま谷中に優しくされる自分の姿を何となく想像していた。自分が他の犠牲者と同じ姿ーー一一糸まとわぬ全裸ーーーにされることなど考えていなかった。彼女たちの裸身を最初に見て、わかっていたはずだったが、谷中と踊っている間に、そのことをすっかり忘れていた。
死ぬのは悲しかったけど、恐くはなかった。覚悟はできていたし、まだ谷中のことを愛していた。また、これまで何度も裸にされたこともある。しかし、死んで抵抗できなくなった後に、裸にされ、無防備な体を弄ばれるのだけは嫌だった。恥かしく、気持ち悪かった。

しかし、一度は逃げたものの、ゴーグルを失ったことが致命的だった。水中での視力も失い、出口とは反対の方に逃げたので、すぐ行き止りになってしまった。また、火事場の馬鹿力も長くは続かず、谷中は簡単にミサを捕まえた。すぐに追いついて、後ろから太腿を捕まえると、その体を反転させて、両手首をつかんだのだ。ついさっきまで、余裕で続いていた息も加速度的に苦しくなってきた。

「いやーっ!いやーっ!!」
さすがに男の力、大人の力は強い。すぐにミサの体は岩に押し付けられ、また最初の磔の姿に戻った。いや、全く元のままではない。彼女の足は海底から離れていた。高く吊り上げられていたのである。そして、叫ぶことで、息は更に苦しくなった。
「いやーっ!はっ、放して!!」
「いやーっ!いやーっ!!」
先ほどの、静かな死体のような(ミサ本人に言わせると、お人形さんみたいな)磔ではなかった。何も知らなければ、余計なことを考えなければ、悶え苦しむのもほんの少しだけで、そのまま静かに心臓を止めていただろう。それでも良かった。しかし、今は何とかして、逃げたい、自由になりたい、生きて帰りたい。裸にいたずらだけはされたくない。必死で抵抗した。
両手、両腕、両肩は男の力の強さで完全に押さえ込まれ、後ろの岩にピッタリ張り付いているようだ。ミサは、両脚をバタバタさせた。谷中の体を蹴ってはみたが、すぐ後ろに岩があるので、勢いがつけられず、ほとんど威力はなかった。彼女は、苦しさのあまり固く目を瞑った。全力で、頭を、そして腰を振った。逃げようともがき、苦しさに悶えた。目は見えないが、谷中がうれしそうにしているのを感じた。
「素晴らしい。一時的だが生き返った。暴れる姿も、悶え苦しむ顔も可愛いし、セクシーだ。やはり、挑発したかいがあった」
谷中の声が聞こえた。
(バカ、バカ!何よ。人がせっかく、お人形さんみたいに、おとなしく、可愛く、静かに、死ぬつもりでいたのに。何が「おとなしくしていなさい」よ、何が「君の体に傷をつけたくない」よ、何が「痛みを与えることはしたくない」よ。最初に言っていたのと違うじゃない。この嘘つき!)
ミサはそう思ったが、もう元の状態に戻ることは無理だった。彼女がもがく間にも、谷中は「可愛い」「可愛い」を連発している。ミサは、それに対し、(可愛くなくてもいいからたすけて)・・・・・とは全然考えなかった。たすけてもらえないのは、わかり切っていたし、こんな時でも、彼のほめ言葉はうれしかった。その可愛くてセクシーな自分の姿を想像することで興奮し、苦しさも和らいだ。
しかし、ミサの息は限界に近づいた。水面で最後の呼吸をしてから、すでに3分近く経過していたのだ。
「いやあ・・・た、たすけてえ・・・・だ、誰か・・・・・く、苦しい」
叫んだことで、肺の中の貴重な空気はますます少なくなった。しかも、口や鼻から水が入り込み、咽せてしまった。それ自体苦しかったが、咽せたことで、空気は更に流出し、水は入り込み、それで更に咽せるという悪循環になった。しかも、せっかく叫んだ、そんな思いまでして叫んだその声が、助けてくれる誰かに届くことはなかった。ここは、水深25メートル、海岸までは数キロ離れ、人がいるところは、更に遠かった。まして真夜中だ。

とうとう走馬灯現象まで起こってしまった。物心ついてから、谷中の腕の中で死のうとしている今のことまで、次々と見えたのだ。苦しくて、目を瞑っているため、ますますはっきりと見えた。幼稚園・小中学校での生活や友だち。バレエやスイミングの思い出。つい最近まで犬かきしかできなかったのに、谷中を追ってよくここまで来たものだ・・・もっとも泳げないままだったら、こんなことにならずに済んだのだけれど・・・。今、着けている、この白い水着を買った時は本当にうれしかった。これまでに着ただけでなく、見たことのあるどんな服よりも好きだ・・・この水着だったから、先生に見てもらいたくて、わざわざここまで来て、こんな目に遭っちゃったんだけど・・・。思い出はとうとう白鳥学園にまで来ていた。新しい友人たちと、彼女たちがしてくれた忠告、自分の部屋のベッド・・・ああ、みんなの言うことをちゃんと聞いていたら、今頃、あそこで気持ち良く寝ていたのにね・・・。そして、何度も見えた、そして最後にも見えたのは、やはり母親の顔だった。優しい顔がほとんどで、特に最後の姿は、黒魔術を使うところだった。

ミサは、それを見て、最後の手段、黒魔術を使うことを決心した。
(人を殺めたくない。自分が死んだ方がずっといい。だけど・・・・・)

それでも呪文を唱えた。唱えたのは、魔女としての義務か、魔女の世界の掟のようなものからだったのかも知れない。
「エ、エコエコアザラ・・・ク、エコ・・・・エコ・・・・・ザ・・・・・・メ・・・・・・・・」

(「海底の舞踏会」未完。とりあえず、「U.W.D.」に続く)



GATTO 版「海底の舞踏会」後編をご覧いただき、ありがとうございました。

「海底の舞踏会」の原作は、扉を含めて23ページの作品です。私の文は、そのうちの20ページ(@前編が1〜15、A中編が15〜19に相当しますが、扉部分と最後の21〜22ページに相当する部分はありません。

今回の、B後編は、20ページめ)に相当します。文章そのものはかなり長くなっていますが、約2分間の話です。そんな短時間の場面がなぜこれほど長くなったかといえば、ミサが谷中の手に落ちてから溺死寸前までいってしまうという、一番スリルのある、一番重要な場面でありながら、原作では、わずか1ページ・8コマ(それも小さいコマばかり!)という扱いで、ここに物足りなさを感じていたからです。
ページ数が足りないということは一昨日書きましたが、全体のページ数が決まっているにしても、谷中がミサに魚の話をする場面に3ページ、ミサが水晶球を見る場面に4ページも使っているので、その辺を減らして、ミサが水中で捕らわれの身になる場面のページ数(やはり4ページは欲しかったです)を増やし、絵(ミサの水着姿は、小さいコマばかりで、大部分が上半身ばかりでした)を充実させていただきたかったものです。
また、だんだん息が苦しくなる過程も書きたかったので、こんな長さになってしまいました。
また、「あれも書きたい。これも書きたい」で、どんどん書き足し、書き直してきました。投稿の直前までもです。でも、おそらく、書き足したいこと、書き直したいことは、投稿後にもたくさん出ることでしょう。

さて、ここまで、GATTO 版「海底の舞踏会」におつき合いいただき、誠にありがとうございました。次回からは、それを引き継ぐ形で、私のオリジナル作品「U.W.D.」が始まります。
原作は、大変面白いストーリーでしたが、その面白さを出し切るには短すぎ、また、最後ヒロインが黒魔術の呪文を唱えるだけで一件落着してしまうことにも物足りなさを感じておりました。そこで考え、書きましたのが、続編に相当する作品です。
「U.W.D.」と申しますのは、"Under Water Dancers" の略で、「海底の舞踏会」の中で、谷中の犠牲となった女性たちのご遺体の意味です。水中で踊るような姿を見せるため、この名をつけさせていただきました。そこで「遺体を遺族の元に帰したい。しかし、犯人の法の裁きも回避し、バレエ・スクールも存続しなければならない」を次作のテーマとしております。この難問を実現するため、犯人を愛する人々が苦悩し、解決法を探す、というお話です。
次作は、「海底の舞踏会(以下、元作)」を元に書いたものですが、オリジナル作品であるため、作品名や人物名に元作のものを使うことができません。そのため、明日からの投稿に先立ち、ここで登場人物及び施設の紹介をさせていただきます。

[主な登場人物・施設]
佐倉マリ:本作の主人公。中学3年生。見習い魔女?元作の「黒井ミサ」に相当。
大網司:バレエ講師。元作の「谷中」に相当。
黒猫学園:海辺にあるバレエ・スクール。元作の「白鳥学園」に相当。

以下は、元作に登場しなかった、または、元作で名前がなかった、次作の登場人物です。
佐倉忠男:マリの父親。
佐倉和歌子:マリの母親。魔女。
成田洋子:マリの親友。
大網信雄:大網の弟。洋子の婚約者。

混乱しないよう、最初の二人だけは覚えておいてくださいね。気に入っていただけるとありがたいのですが。

それから、この先のストーリーは、数パターン用意しているのですが、今回は、自分が考えた中で、一番ソフトな「お人よし路線」です。ヒロインを賢くし過ぎると、何でも簡単に解決してしまうので、あまり面白くなさそうに思うのです。他のストーリーも、いつか発表していきたいと考えております。

それでは、明日から、どうかよろしくお願いします。
Posted by GATTO at 2018年08月04日 01:06
酷暑となつた、甲府市内の夜明け前。
サテGATTOさん。千葉県にまつわる苗字の登場人物、安心感が有りますナ。蚊に刺された。
土左衛門の話は佳い佳い。
Posted by 百足衆 at 2018年08月04日 04:46
百足衆先生、おはようございます。メッセージ、ありがとうございます。

あれも書きたい、これも欲しい、と思いながら書いているうち、こんなに長くなってしまいました(笑)。野球漫画・アニメでいえば、一球投げるのに連載や放送の丸々一回を使うようなものでしょうか(爆)。
原作は、ここのところメチャメチャ簡単に書いていましたから、もうこの時点で私のオリジナル・ストーリーになっているのかも知れませんね。
ここのところは、心理描写に力を入れたつもりですが、実際の女の子の気持ちとはかけ離れてはいるだろうな、とも思ってもいます。とはいえ、一番一所懸命書いたところでもあり、お楽しみいただけたら幸いです。
Posted by GATTO at 2018年08月04日 10:10
GATTO様

私なりの解釈も脳内に交えて、楽しみました♪
ありがとうございます

今日は焼きそばです。野菜が高い・・
Posted by ラー at 2018年08月04日 12:00
ラーさん、ありがとうございます。

でも、さすがに長過ぎたかなぁ・・・
Posted by GATTO at 2018年08月04日 12:26
とりあえず、ショート・バージョンも作ってみました。


「君は新入生だね!」
「あっ!」
ミサは谷中に両手首をつかまれた。更に、この時ゴーグルを剥ぎ取られたので、水中で視力を失ってしまった。
更に谷中は、手首をつかんだまま、ミサの体を背中から岩に押しつけた。まるで磔のようだ。
「都合よく来てくれたよ!君も水中で私と踊るんだよ!!」
ミサに、谷中の声が突き刺さった。水中では、本来声で話はできないが、谷中、あるいは両者ともテレパシーが使えるのだろう。
「は、放して!」
ミサは懇願したが、そんなことを聞く相手ではない。
「いや、放さない。ここに来た以上は、秘密を知ったからには、生かして帰すことはできない。私は、空気を呼吸する女には魅力を感じないのだよ・・・」

ミサは、磔になった自分の体を見た。水着の中の腰まわりも、水着の外の太腿や二の腕も、肩も、若さと健康美ではち切れそうだ。色白の肌には、傷一つなく、これも特別美しかった。傷や痛みや病んだところは一つもない。数分後には死んでいる人間の体には、とても見えなかった。
(こんなに若いのに、こんなに元気なのに、ここで死ぬのか。死ななくちゃいけないのか、私・・・空気が吸えない、ただそれだけのために・・・)
当然のことだが、ミサの周囲は水で満たされていて、空気を吸うことはもちろん、触れることすらできなかった。まだ、息は全然苦しくなかったので、死のイメージはおぼろげだった。しかし、それだけに納得がいかなかった。自分が死ぬことが理不尽に思えた。
また、あれほど谷中に見せたかった、ほめてもらいたかった白い水着と、その水着姿だが、今は、下着姿のように感じられて、恥ずかしく、みじめだった。こんな無防備な格好で、捕らわれの身になったことが、恥ずかしくてたまらなかった。

「君は素晴らしい」
「えっ?」
「呼吸をやめた君は・・・・永遠に空気を吸うことのない君は、もう死体と変わらない。そして、そんな君には、白い水着がよく似合っているよ」
(最後の方は、ほめ言葉かしら?)
ミサ、何をのん気に。とはいえ、谷中から水着姿をほめられるというのは、楽しみにしていたことなので、素直にうれしかった。こんな形ではあったが。

「君は・・・・身動きのできない君は、彼女たちよりも死体らしい。そう、ここでは、彼女たちの方が生きていて、君だけが死んでいるのだよ」
(そうかもしれない。たしかに他の人たちの方が自由でうらやましいわ)
ミサは、谷中の言葉通り、踊るように漂う他の女性たちでなく、動けない自分こそがもう死んでいるという感覚に捕われ、恐怖心は次第に痲痺し始めていた。
「レッスンの時に、喪服のような黒いレオタード群の女生徒たちの中で、君が一人だけ、まるで死に装束のような白いレオタードを着ていただろう。あれも葬式のようだった。棺の中の死者のようだったよ」
(あら、先生も同じこと考えてたのね。相性バツグンじゃない、私たち・・・)
ミサの恐怖心は完全に痲痺し、更にのん気なことを考えたが、その一方、
(あの時感じた不吉なイメージは、こうなることだったのね。よくわかったわ)
と、死ぬ直前になって、レッスンの時から続く悩みからやっと解放された。
「今や死体となった君には、白い水着が、死に装束として相応しい」
(いやだ、バカ!バカ!!レオタードのことなら死に装束でもいいけど、水着のことは、ウエディング・ドレスみたい、と言ってよ。お気に入りの水着だから、先生に見てもらいたかったし、ほめてもらいたかったのよ。先生が大好きなんだから)
ミサは不満そうに頬をふくらませた。
それを見て、谷中がミサを誘った。
「息が続く間、一緒に踊らないか?白い水着はつけたままでいい。大好きで、大切なものなんだろう?それを私に死に装束呼ばわりされたくないだろう?」
(そうだけど、踊りながら死んで、永久に踊り続けるのか・・・)
谷中は、ミサの思いを見抜いたように言うのだった。
「そうだね。息なんか続いていようが、いまいが関係ないよね。この瞬間から永久に踊り続けるんだ」
そして踊り始めた。誘ってはいたものの、有無を言わさぬ強制だった。谷中は彼女の両手首を握ったまま踊りだし、彼女も逆らわずに動きを合わせ、踊り始めた。

そして、踊っている間も話を聞かされた。
「いいじゃないか。君は、今よりも美しい姿に変わるのだから。美しい姿に、生き返る、生まれ変わるのだから。そして、こんな美しい踊りをいつまでも続けられるのだから」
谷中の話は続いた。

「それでは、最後に面白い話をしてあげよう。それは15年前の夏だった。水中で、女の死体を見て、女性の本当の美しさを知ったのだよ・・・・・」
(15年前の夏か・・・私の生まれた頃ね。私、生まれた時には、もうこうなる運命だったのか。その女の人さえ溺れなければ、こんな目に遭わずに済んだのに・・・私も、この子たちも・・・・・こうなる前に、もっと美味しい物をたくさん食べておけば良かったわ。恋もしたかったし、きれいな服を着て、おしゃれもしたかったわ。ああ、私って、かわいそう)
ミサは、甘い感傷に浸った。まだ15歳、その若さで死んでゆくことを考えると、悲しくて、切なくて、くやしくて涙が出た。もっとも、水中だったため、すぐ目の前にいる谷中でさえ気がつかなかったが。

しかし、それでも、谷中のことは愛していた。
(谷中先生、大好きよ。こんなことになっちゃったけど、恨んでなんかいないわ。ここで死んじゃう私にとって、先生への思いが最後の恋なんだから)
そう考えている自分が可愛く思えてならなかった。
(でも、まあいいか。先生が私のことを好きなことは確かだし、結局、先生のものにはなれたんだから、最後の恋はかなったのよ)
そう思って自分をなぐさめ、励ました。
(それに、一番最後は、どんな服よりも好きな、大好きなこの水着をつけているんだし、水着姿を先生に見てもらって、似合うとほめてもらったのは、最初の希望通りだったんだから。割といい最期だったかもしれないわね)

一方、谷中は、まだ話を続けていた。
「・・・・・君、見たまえ」
(ゴーグル取られちゃったから、もう何も見えないんですけど・・・)
「・・・これは美しい踊りだよ。思うがままに水中でくねる裸身は、色鮮やかに輝く。それは魚以上に素晴らしい。目が眩むほど美しい。神秘へ誘う水中の幻想の世界」

もう1分以上、踊りながら谷中の話を聞かされ続けていた。少しずつではあるが、息も苦しくなり始め、ミサは死を覚悟した。それに気がついたのか、谷中は、踊りの動きを止め、まるでキスでもするかのように、互いの顔を近づけた。それは、あたかも彼女への最初で最後のプレゼントのように見えた。ミサもそのつもりだったようで、目を瞑り、体を固くした。わずか15年だったが、有意義で、楽しい一生だった。その短い人生の最後の記念に、素敵な贈り物を受け取ろう、そして、その思い出を胸に天国に旅立とう。
(ファースト・キス、そして、生前最後のキスか・・・)
彼女は幸せだった。もう何も恐くなかった。しかし・・・・


・・・しかし、谷中は、マスクもレギュレーターも外さなかった。そして、彼女の太腿、腰まわり、胸、顔の順に、舐め回すように見ながら言った。
「君はもう数秒で息が続かない。その後で、水着を脱がすのだよ。うっふふふふ・・・・さあ、君の美しい裸身を、早く私に見せておくれ」
「いやーっ!」
ミサは、我に返ると、火事場の馬鹿力で、谷中の手を振り解き逃げた。それまで、ミサは、自分が他の犠牲者と同じ姿ーー一全裸ーーーにされることなど考えていなかった。彼女たちの裸身を最初に見て、わかっていたはずだったが、谷中と踊っている間に、そのことをすっかり忘れていた。死んで抵抗できなくなった後に、裸にされ、無防備な体を弄ばれるのだけは嫌だった。恥かしく、気持ち悪かった。

しかし、火事場の馬鹿力も長くは続かず、谷中は簡単にミサを捕まえた。すぐに追いついて、後ろから太腿を捕まえると、その体を反転させて、両手首をつかんだのだ。すぐにミサの体は岩に押し付けられ、また最初の磔の姿に戻った。いや、全く元のままではない。彼女の足は海底から離れていた。高く吊り上げられていたのである。そして、叫ぶことで、息は更に苦しくなった。

「いやーっ!はっ、放して!!」
「いやーっ!いやーっ!!」
両手、両腕、両肩は後ろの岩にピッタリ張り付いているようだ。ミサは、両脚をバタバタさせた。谷中の体を蹴ってはみたが、すぐ後ろに岩があるので、勢いがつけられず、ほとんど威力はなかった。彼女は、苦しさのあまり固く目を瞑った。全力で、頭を、そして腰を振った。逃げようともがき、苦しさに悶えた。目は見えないが、谷中がうれしそうにしているのを感じた。
「素晴らしい。一時的だが生き返った。暴れる姿も、悶え苦しむ顔も可愛いし、セクシーだ。やはり、挑発したかいがあった」
谷中の声が聞こえた。
彼女がもがく間にも、谷中は「可愛い」「可愛い」を連発している。ミサは、それに対し、(可愛くなくてもいいからたすけて)・・・・・とは全然考えなかった。たすけてもらえないのは、わかり切っていたし、こんな時でも、彼のほめ言葉はうれしかった。その可愛くてセクシーな自分の姿を想像することで興奮し、苦しさも和らいだ。
しかし、ミサの息は限界に近づいた。水面で最後の呼吸をしてから、すでに3分近く経過していたのだ。
「いやあ・・・た、たすけてえ・・・・だ、誰か・・・・・く、苦しい」
叫んだことで、肺の中の貴重な空気はますます少なくなった。しかも、口や鼻から水が入り込み、咽せてしまった。それ自体苦しかったが、咽せたことで、空気は更に流出し、水は入り込み、それで更に咽せるという悪循環になった。しかも、せっかく叫んだ、そんな思いまでして叫んだその声が、助けてくれる誰かに届くことはなかった。ここは、水深25メートル、海岸までは数キロ離れ、人がいるところは、更に遠かった。まして真夜中だ。

とうとう走馬灯現象まで起こってしまった。物心ついてから、谷中の腕の中で死のうとしている今のことまで、次々と見えたのだ。幼稚園・小中学校での生活や友だち。バレエやスイミングの思い出。つい最近まで犬かきしかできなかったのに、谷中を追ってよくここまで来たものだ・・・もっとも泳げないままだったら、こんなことにならずに済んだのだけれど・・・。今、着けている、この白い水着を買った時は本当にうれしかった。これまでに着ただけでなく、見たことのあるどんな服よりも好きだ・・・この水着だったから、先生に見てもらいたくて、わざわざここまで来て、こんな目に遭っちゃったんだけど・・・。思い出はとうとう白鳥学園にまで来ていた。新しい友人たちと、彼女たちがしてくれた忠告、自分の部屋のベッド・・・ああ、みんなの言うことをちゃんと聞いていたら、今頃、あそこで気持ち良く寝ていたのにね・・・。そして、何度も見えた、そして最後にも見えたのは、やはり母親の顔だった。優しい顔がほとんどで、特に最後の姿は、黒魔術を使うところだった。

ミサは、それを見て、最後の手段、黒魔術を使うことを決心した。
(人を殺めたくない。自分が死んだ方がずっといい。だけど・・・・・)

それでも呪文を唱えた。唱えたのは、魔女としての義務か、魔女の世界の掟のようなものからだったのかも知れない。
「エ、エコエコアザラ・・・ク、エコ・・・・エコ・・・・・ザ・・・・・・メ・・・・・・・・」

(「海底の舞踏会」未完。とりあえず、「U.W.D.」に続く)
Posted by GATTO at 2018年08月04日 14:19
全然短くないです(苦笑)。
Posted by GATTO at 2018年08月04日 14:23
GATTO殿

そう、短くないので今読み終えたとこ。
うーんこういう黒井ミサ像も嫌いじゃないかも。おいら的には、クールな死刑執行人という意味で女ゴルゴという見方をしてたけどね。
Posted by 燈台森 at 2018年08月04日 21:37
GATTOさん

傑作です。原作越えてます
Posted by シモン at 2018年08月04日 22:50
こんばんは〜

シモンさん、ご声援ありがとうございます。実は、私結構話を作るのが好きなのですが、「えろ」って意外に苦手で作れなかったんですよ。この話も、このブログが無ければ、生まれなかったでしょうし、生まれたとしても、このブログの好意的な雰囲気がなければ、発表は難しかったと思います。シモンさんはじめとする「微えろ」の皆さんに、ただただ感謝です。

燈台森さん、ご声援ありがとうございます。実は、ストーリーを展開する上で、「女ゴルゴ」のままでは無理なところがあるのですね。特に、難しいのが、今日と明日なんです。きっと、明日の発表の話を読んでいただけたら、絶対「女ゴルゴ」では無理なことがおわかりいただけると思います。
「ツッコミ2」にも書きましたが、水晶球でも見られそうなものを、わざわざ真っ暗な海を泳いで見に行く、というのは不自然に思うんですね、特に「女ゴルゴ」が、野次馬根性や恐いもの見たさで。だから、相手に恋心を抱いている優しい可愛い女の子、という設定にしてみました。この方がストーリー的には自然だと思います。
また、女ゴルゴ的なストーリーも、自分の中にはありますが、真っ暗な海を泳いで谷中を追う時点では、「優しい可愛い女の子」でないと難しいです。その場合、途中で豹変させることになります。
Posted by GATTO at 2018年08月04日 23:31
明日から発表の新シリーズですが、わざわざタイトルや登場人物名を変えるのは、完全に自分のオリジナル・ストーリーだから、なのですが、それ以外に、ヒロインの性格が黒井ミサと違い過ぎるからでもあります。

しかし、ヒロイン以上にかけ離れているのが、ヒロインの母親(原作の「海底の舞踏会」には登場しません)の黒井奈々子です。ミサの性格だけなら、まだ「猫をかぶっている」ことにすれば良いのですが、母親の方は無理ですね(笑)。だから、全くの別人にしなければなりません。明日、登場して、明後日、本領を発揮します。どうかお楽しみに(笑)。
Posted by GATTO at 2018年08月04日 23:50
とりあえず、再度、ショート・バージョンも作ってみました。


「君は新入生だね!」
「あっ!」
ミサは谷中に両手首をつかまれた。更に、この時ゴーグルを剥ぎ取られたので、水中で視力を失ってしまった。
更に谷中は、手首をつかんだまま、ミサの体を背中から岩に押しつけた。まるで磔のようだ。
「都合よく来てくれたよ!君も水中で私と踊るんだよ!!」
ミサに、谷中の声が突き刺さった。水中では、本来声で話はできないが、谷中、あるいは両者ともテレパシーが使えるのだろう。
「は、放して!」
ミサは懇願したが、そんなことを聞く相手ではない。
「いや、放さない。ここに来た以上は、秘密を知ったからには、生かして帰すことはできない。私は、空気を呼吸する女には魅力を感じないのだよ・・・」

ミサは、落胆していた。あれほど谷中に見せたかった、ほめてもらいたかった水着姿だが、こんな形で見てもらうことになるとは想像もできなかった。今は、下着姿を見られているように感じられて、恥ずかしく、みじめだった。こんな無防備な格好で、捕らわれの身になったことが、恥ずかしくてたまらなかった。

そして、磔になった自分の体を見た。水着の中の腰まわりも、水着の外の太腿や二の腕も、肩も、若さと健康美ではち切れそうだ。色白の肌には、傷一つなく、これも特別美しかった。傷や痛みや病んだところは一つもない。数分後には死んでいる人間の体には、とても見えなかった。
(こんなに若いのに、こんなに元気なのに、ここで死ぬのか。死ななくちゃいけないのか、私・・・空気が吸えない、ただそれだけのために・・・)
当然のことだが、ミサの周囲は水で満たされていて、空気を吸うことはもちろん、触れることすらできなかった。まだ、息は全然苦しくなかったので、死のイメージはおぼろげだった。しかし、それだけに納得がいかなかった。自分が死ぬことが理不尽に思えた。

「君は素晴らしい」
「えっ?」
「呼吸をやめた君は・・・・永遠に空気を吸うことのない君は、もう死体と変わらない。そして、そんな君には、白い水着がよく似合っているよ」
(最後の方は、ほめ言葉かしら?)
ミサ、何をのん気に。とはいえ、谷中から水着姿をほめられるというのは、楽しみにしていたことなので、素直にうれしかった。こんな形ではあったが。

「君は・・・・身動きのできない君は、彼女たちよりも死体らしい。そう、ここでは、彼女たちの方が生きていて、君だけが死んでいるのだよ」
(そうかもしれない。たしかに他の人たちの方が自由でうらやましいわ)
ミサは、谷中の言葉通り、踊るように漂う他の女性たちでなく、動けない自分こそがもう死んでいるという感覚に捕われ、恐怖心は次第に痲痺し始めていた。
「レッスンの時に、喪服のような黒いレオタード群の女生徒たちの中で、君が一人だけ、まるで死に装束のような白いレオタードを着ていただろう。あれも葬式のようだった。棺の中の死者のようだったよ」
(あら、先生も同じこと考えてたのね)
ミサの恐怖心は完全に痲痺し、更にのん気なことを考えたが、その一方、
(あの時感じた不吉なイメージは、こうなることだったのね。よくわかったわ)
と、死ぬ直前になって、レッスンの時から続く悩みからやっと解放された。
「今や死体となった君には、白い水着が、死に装束として相応しい」
(いやだ、バカ!バカ!!水着のことは、ウエディング・ドレスみたい、と言ってよ。先生に見てもらいたかったし、ほめてもらいたかったのよ。先生が大好きなんだから)
ミサは不満そうに頬をふくらませた。
「いいじゃないか。君は、今よりも美しい姿に変わるのだから。美しい姿に、生き返る、生まれ変わるのだから。そして、こんな美しい踊りをいつまでも続けられるのだから」
谷中の話は続いた。

「それでは、最後に面白い話をしてあげよう。それは15年前の夏だった。水中で、女の死体を見て、女性の本当の美しさを知ったのだよ・・・・・」
(15年前の夏か・・・私の生まれた頃ね。私、生まれた時には、もうこうなる運命だったのか。その女の人さえ溺れなければ、こんな目に遭わずに済んだのに・・・私も、この子たちも・・・・・こうなる前に、もっと美味しい物をたくさん食べておけば良かったわ。恋もしたかったし、きれいな服を着て、おしゃれもしたかったわ。ああ、私って、かわいそう)
ミサは、甘い感傷に浸った。まだ15歳、その若さで死んでゆくことを考えると、悲しくて、くやしくて涙が出た。もっとも、水中だったため、すぐ目の前にいる谷中でさえ気がつかなかったが。

(でも、まあいいか。先生が私のことを好きなことは確かだし、結局、先生のものにはなれたんだから、最後の恋はかなったのよ)
そう思って自分をなぐさめ、励ました。
(それに、一番最後は、どんな服よりも好きな、大好きなこの水着をつけているんだし、水着姿を先生に見てもらって、似合うとほめてもらったのは、最初の希望通りだったんだから。割といい最期だったかもしれないわね)

少しずつではあるが、息も苦しくなり始め、ミサは死を覚悟した。それに気がついたのか、谷中は、まるでキスでもするかのように、互いの顔を近づけた。それは、あたかも彼女への最初で最後のプレゼントのように見えた。ミサもそのつもりだったようで、目を瞑り、体を固くした。わずか15年だったが、有意義で、楽しい一生だった。その短い人生の最後の記念に、素敵な贈り物を受け取ろう、そして、その思い出を胸に天国に旅立とう。
(ファースト・キス、そして、生前最後のキスか・・・)
彼女は幸せだった。もう何も恐くなかった。しかし・・・・


・・・しかし、谷中は、マスクもレギュレーターも外さなかった。そして、彼女の太腿、腰まわり、胸、顔の順に、舐め回すように見ながら言った。
「君はもう数秒で息が続かない。その後で、水着を脱がすのだよ。うっふふふふ・・・・さあ、君の美しい裸身を、早く私に見せておくれ」
「いやーっ!」
ミサは、我に返ると、火事場の馬鹿力で、谷中の手を振り解き逃げた。それまで、ミサは、自分が他の犠牲者と同じ姿ーー一全裸ーーーにされることなど考えていなかった。彼女たちの裸身を最初に見て、わかっていたはずだったが、谷中に押さえらている間に、そのことをすっかり忘れていた。死んで抵抗できなくなった後に、裸にされ、無防備な体を弄ばれるのだけは嫌だった。恥かしく、気持ち悪かった。

しかし、火事場の馬鹿力も長くは続かず、谷中は簡単にミサを捕まえた。すぐに追いついて、後ろから太腿を捕まえると、その体を反転させて、両手首をつかんだのだ。すぐにミサの体は岩に押し付けられ、また最初の磔の姿に戻った。いや、全く元のままではない。彼女の足は海底から離れていた。高く吊り上げられていたのである。そして、叫ぶことで、息は更に苦しくなった。

「いやーっ!はっ、放して!!」
「いやーっ!いやーっ!!」
両手、両腕、両肩は後ろの岩にピッタリ張り付いているようだ。ミサは、両脚をバタバタさせた。谷中の体を蹴ってはみたが、すぐ後ろに岩があるので、勢いがつけられず、ほとんど威力はなかった。彼女は、苦しさのあまり固く目を瞑った。全力で、頭を、そして腰を振った。逃げようともがき、苦しさに悶えた。目は見えないが、谷中がうれしそうにしているのを感じた。
「素晴らしい。一時的だが生き返った。暴れる姿も、悶え苦しむ顔も可愛いし、セクシーだ。やはり、挑発したかいがあった」
谷中の声が聞こえた。
彼女がもがく間にも、谷中は「可愛い」「可愛い」を連発している。ミサは、それに対し、(可愛くなくてもいいからたすけて)・・・・・とは全然考えなかった。たすけてもらえないのは、わかり切っていたし、こんな時でも、彼のほめ言葉はうれしかった。その可愛くてセクシーな自分の姿を想像することで興奮し、苦しさも和らいだ。
しかし、ミサの息は限界に近づいた。水面で最後の呼吸をしてから、すでに3分近く経過していたのだ。

「いやあ・・・た、たすけてえ・・・・だ、誰か・・・・・く、苦しい」
しかし、その声が、助けてくれる誰かに届くことはなかった。ここは、水深25メートル、海岸までは数キロ離れ、人がいるところは、更に遠かった。まして真夜中だ。

とうとう走馬灯現象まで起こってしまった。物心ついてから、谷中の腕の中で死のうとしている今のことまで、次々と見えたのだ。幼稚園・小中学校での生活や友だち。バレエやスイミングの思い出。つい最近まで犬かきしかできなかったのに、よくここまで来たものだ・・・もっとも泳げないままだったら、こんなことにならずに済んだのだけれど・・・。今、着けている、この白い水着を買った時は本当にうれしかった・・・この水着だったから、先生に見てもらいたくて、わざわざここまで来て、こんな目に遭っちゃったんだけど・・・。思い出はとうとう白鳥学園にまで来ていた。新しい友人たちと、彼女たちがしてくれた忠告、自分の部屋のベッド・・・ああ、みんなの言うことをちゃんと聞いていたら、今頃、あそこで気持ち良く寝ていたのにね・・・。そして、何度も見えた、そして最後にも見えたのは、やはり母親の顔だった。優しい顔がほとんどで、特に最後の姿は、黒魔術を使うところだった。

ミサは、それを見て、最後の手段、黒魔術を使うことを決心した。
(人を殺めたくない。自分が死んだ方がずっといい。だけど・・・・・)

それでも呪文を唱えた。唱えたのは、魔女としての義務か、魔女の世界の掟のようなものからだったのかも知れない。
「エ、エコエコアザラ・・・ク、エコ・・・・エコ・・・・・ザ・・・・・・メ・・・・・・・・」

(「海底の舞踏会」未完。とりあえず、「U.W.D.」に続く)
Posted by GATTO at 2018年08月06日 07:35
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]